記事テキストアーカイヴ
ここには外部サイトに発表した記事をテキストベースで保管しています。
資料館は2010年にウェブサイトを立ち上げ内外で数百本の記事を発表しました。
ただ分散し旧サイト設計では読みづらく皆さまにご不便をおかけしてきました。
新サイトでは集中管理すべく再度まとめていきます。
文字データの保管を優先していますので記事により一部体裁が崩れる場合があります。あらかじめご了承下さい。
記事タイトル

2026年8月22日 10:18
水俣病患者の救済のもっとも初期に命懸けで尽力した河本輝夫さん。河本さんら水俣病患者への日本共産党による「背後からの一刀」を告発した、渡辺京二氏の言葉を紹介する。(石牟礼道子編 『水俣病闘争 わが死民』創土社より)
「…(前略)…
定型がありえないということは、たんに自主交渉闘争のみならず、全水俣病闘争を一貫する性格である。それは何にもとづくのかというと、水俣病闘争が一定社会の基本的法体制の中で権利を保障されない、さらにまた政治組織の一定政治プランによる指導を受けない、生活民それ自体の自立した闘争である、あるいはあるべきであるという事実に基礎をおいている。そのような性格の生活民大衆自身の蜂起が、政治的諸党派のプランや指導を一挙に吹き飛ばす非定型なものであった、いや、そうでしかありえなかったということは、史上の諸事実によって検証することができる。水俣病闘争は生活民大衆の蜂起というにはほど遠い闘争であるけれども、生活民自身が党派的指導をはねつけて手探りで闘いを提起する時に生じる非定型的性格を、深く刻印されている。
チッソ本社坐りこみ闘争は、けっして公害闘争における有効な新戦術として考案され、提起されたのではない。いわゆる一株運動との決定的な差はそこにある。それは川本輝夫さんをはじめとする新認定水俣病患者が、意識を包む闇の中から、自分自身をひきずり上げるようにして行きついた行動の形態であり、彼らが存在の深みから全身をうち顫わせるようにして発した〝ことば″の具象態である。
水俣病闘争は、水俣病に罹患した患者という、具体的存在規定を欠いた抽象的な集団によって担われた闘争ではけっしてない。
…(中略)…
水俣病患者を悲惨な公害病患者としてとらえ、それに対する人間的責任というふうに問題を立てる良心主義的立場は、誠実さという点で敬意を払うべきものであることに異存はない。しかしその立場に立つかぎり、水俣病闘争は成り立ちえない。なぜなら、それは人間の一定水準の自覚された良心を前提としており、その良心の自覚態が一定水準の知的操作の所産である以上、その視点からする運動は必然的に知識人運動たらざるをえないからである。水俣病闘争を公害闘争としてとらえる視点についても、同様なことがいいうる。公害闘争は、全国から公害をなくしましょう式のふぬけた体制補完闘争になり下る危険を宿命的に孕んでいる。
…(中略)…
戦後日本市民社会の体制は、けっして単純にいわゆる「逆コース」式の強権支配によって維持されたのではなく、平和憲法を基本法とする戦後法体系によって市民権を得たいわゆる反体制運動を媒介とすることによって、支配のバランスを保持して来たのである。革新系諸運動は戦後型支配に構造的に組みこまれた不可欠の反対項であって、それが諸闘争を提起し、行政権力と角遂を演ずることによって、結果的には、戦後型支配にとって最も合理的なラインが引かれて来たといってよい。公害闘争またしかりである。
…(中略)…
日共水俣市委員会は三日「全市民のみなさんに訴えます」と題するビラを折りこんだ。これは、新潟では水俣病問題は解決されつつあるのに、水俣ではいまなお「市民に不安をあたえ暗い『水俣の町』というイメージからぬけだすことができない」とか、「〝明るい水俣をとりもどそう″という市民の悲願」などという恐るべき認識を真正直に吐露した文章で、その中でふれられているチッソの責任追及など申し訳にすぎず、彼らの水俣病問題に対する基本的認識が〝水俣病と安賃争議のために水俣はさびれた、これをなんとかしなくてはならぬ″ という、チッソが陰に陽に流し続けた、患者と水俣工場第一労組の労働者を圧殺するためのイデオロギーの完全なとりこになっていることを、白日の下にさらすものであった。したがって、彼らの主張が「現在、最も重要なことは、〝患者、家族を救済しよう″〝明るい水俣をとりもどそう″という市民の悲願を達成するためには、思想、信条のちがいをのりこえ人道的立場にたち、意見の不一致点については忍耐づよく話し合い、一致点にもとづいて全市民が一つに力をあわせ、水俣病問題の真の解決に全力をあげて、とりくむことではないでしょうか」という形に収束されるのは、理の当然であった。彼らが何をおそれ、何につきあげられているのかということは、次の一句に明らかであった。「そうでないと水俣病問題は(中略)市民間のミゾをふかめ、ひいては水俣病の真の解決をおくらせる結果になりかねません」
日共の数々の愚行はいまさら問題にするのも沙汰の限りではあるが、この声明は愚行などという生易しいしろものではなく、決死の闘いに立った十八家族への背後からの一刀であり、政治的犯罪の極北を示すものである。「現在、最も重要なこと」は、自民党支部長と新日本化学重役を筆頭代表とするふたつの署名運動がチッソサイドの運動であり、自主交渉を要求する患者の闘いを孤立させ封殺しようとするものであることを徹底的に暴露し、十八家族の坐りこみを明確に支持することである。ところが彼らは「最近、水俣病問題の解決をめぐって、署名運動やまたいろんな見解がビラでだされ、活発な論争が行なわれています。このことについてわが党は、『ねた子をおこすな』といわれていた数年間の状況とはことなって〝一日も早く患者、家族を救済し、明るい水俣をとりもどそう″〝そのためには水俣病の真の解決が重要だ″ということが、市民の多数の悲願となってきていること、そして市の『有力者』たちも、そのことを無視できなくなっていることの反映だと考えます」というふうに署名運動の本質を進んで隠蔽し、このような運動と一致点を探らないと「市民間のミゾをふかめ」ることになると、坐りこみ患者を脅迫したのである。
同じ日、彼ら日共市委員会は、患者、自民党、社会党、公明党に「一堂にあつまり、話し合いを開催すること」を申入れた。川本輝夫さんはこの申入れ書中に「小異をすてて大同につき」とあるのを読み、「ハハン。わしたちの言い分は小異ちゅうこつじゃな」と破顔一笑した。このような、現実に存在する思想上、利害上の対立を無視した空想的な会談が実現するはずはなかった。申入れ劇は、ただ、患者坐りこみを何とか解消しなければならぬ社会不安としてとらえ、水俣市のただ中における階級的戦闘の激発をおそれるあまり、無原則的階級協調によって平和裡に闘争を収拾しようという、彼らの中間主義的な立場をさらけ出すだけの、ひとり相撲に終った…(後略)…」
石牟礼道子編「 水俣病闘争 わが死民 」創土社刊
「私説自主交渉闘争」渡辺京二 より引用
【補足】河本さんは、自称「左派」系とは正反対の人物であった。だが彼が感じていることは、政治的色分けとは関係のない、人間としての本質的な疑問、憤り、愛である。浅学の身で解読すると、渡辺京二氏による前半の記述は、非常に含蓄深い政治哲学的な内容に見える。
ようするに、「革新系諸運動」などと言ったものは、この頃の段階で、すでに十二分に陳腐化し、「体制内化」されていて、極論すれば支配体制に組み込まれた補完物になり下がっていると見抜いていることだ。
「このころの時点」で、市民から、「無原則的階級協調主義」と言われてしまうほどに腐敗していた。時流ばかりみて、生き長らえること自体を自己目的化した、まさに、「狂算党」の姿だ。
何も生み出さない、しかも、もっとも鼻もちならない類の「知識人」活動による、上から目線的な「同情」と「人民を領導してやる」などと思い上がった「前衛」主義のイデオロギーは、水俣病患者の真の怒りを理解し共有する力など持ち得ない、という厳しい眼差しである。森永ヒ素ミルク中毒事件での腐敗を見せられ続けている立場からは、激しく同意する。
愚かな党派的思考、党利党略、ちんけな組織権益の拡張ありきの思考しかできないにも関わらず、美辞麗句と「反体制的言辞」を操り、ちゃっかり、もっとも悪質なる資本と国家側に、ひたすら揉み手ごますりをする「共産主義」者。我々患者は、生きたひとりの人間としての情念を問い続けている。その原点に立ち帰れ!と述べているわけだ。渡辺氏は、べつに「水俣病患者階級」というものを主張しているのではない。彼が書く「階級闘争」という言葉は、表向きだけの日本共産党への強烈な皮肉として配置されているところが興味深い。
今日このような問題提起をする人は皆無に近いだろう。だが、彼は、もっとも大切な人間の核について語っている。
森永ヒ素ミルク中毒事件においても、このような当たり前のことが「語られない」し、また、「語らせない」ことが蔓延している。
腐敗政治家はどこにでもいる。だが、表向き、それを「批判」しながら、裏で癒着している勢力ほど、害悪を垂れ流すものはない。
政治的詐欺が横行し、腐敗が蔓延する現代の根源にあるといってよい構造だ。
以上
3
https://morinaga-arsenic.jp/ 1955年原乳腐敗を隠すため産廃由来のヒ素混入物質を入れた森永乳業粉ミルクで130人以上の乳児死亡1万3千人の患者。森永は国を使い20年間救済運動を弾圧。不買運動で渋々救済案に応じるが不正な工作を続け2022年提訴された。
https://note.com/no_more_morinaga/n/nc6cba8c14069
X(旧Twitter)
Line
1.WHO [世界保健機関] 搾取的粉ミルクマーケティングの衝撃的レポート [1] [2] [3] / WHOが乳幼児食品業界に対し搾取的粉ミルクマーケティングの中止を要求 [1] 粉ミルクとタバコは、国際的な販売禁止の勧告がある唯一の二つの製品である [ 2 ] [3] / 2.United Nations University Press [国際連合大学出版] 技術と産業公害> 森永ヒ素ミルク中毒事件 [English Version] [1] /3.Report of Morinaga Arsenic Milk Poisoning Incident [English Version] [1] [2]
©森永ヒ素ミルク中毒事件資料館
©Museum of Morinaga Arsenic Milk Poisoning Incident