森永ヒ素ミルク中毒事件資料館
資料収集・検証・公開方針

資料館の検証・公開方針


【要旨】

森永ヒ素ミルク中毒事件資料館は、事件に関する一次資料、裁判記録、行政資料、企業・団体資料、被害者や関係者の証言、報道・研究資料などを収集・保存し、相互に照合・検証することによって、事件の事実関係を可能な限り明らかにすることを基本方針とします。
本資料館は、行政機関、企業、関係団体、被害者側その他、いずれの立場の説明についても、立場そのものを根拠として無条件に正しいものとは扱いません。公的な記録や公式説明についても一次資料との照合を行い、当事者の証言についても、その歴史的価値を尊重しながら、可能な限り他の資料との比較・検証を行います。
また、確認できる事実と評価・解釈を区別し、資料間に矛盾や不一致がある場合には、それを隠すことなく示します。現時点で確認できないことについては、無理に結論を導かず、「分からないこと」を「分かったこと」として扱わないことを原則とします。
本資料館は、人間の尊厳と基本的人権を尊重しながら、権力を持つ側・持たない側のいずれについても、資料に基づく検証を行います。過去の公式説明や後世に形成された歴史認識と、残された資料との間に重大な相違が確認された場合には、その相違を明らかにします。
さらに、新たな資料が発見された場合や、既存の記述に誤りが確認された場合には、本資料館自身の記述についても再検証・訂正を行います。
「客観的である」と自己宣言するのではなく、どの資料を用い、どのような方法で検証し、どの根拠から判断したのかを可能な限り明らかにすることによって、読者自身が資料を確認し、判断できる環境をつくること。
それが、本資料館の基本的な姿勢です。
以下に、そのための具体的な資料収集・検証・公開の原則を示します。


【本論】

1.この資料館が目指すもの

森永ヒ素ミルク中毒事件資料館は、1955年に発生した森永ヒ素ミルク中毒事件に関する記録、資料、証言、裁判記録、行政資料、被害者運動に関する資料、関連文献その他の歴史資料を収集・保存し、可能な限り広く公開することを目的とします。
本資料館が重視するのは、特定の組織、個人、行政機関、企業、団体などの主張をそのまま正しいものとして紹介することではありません。
また、反対に、既存の公式説明を否定すること自体を目的とするものでもありません。
重要なのは、何が主張されているのか、何が記録されているのか、そしてそれを裏付ける資料が何であるのかを明らかにし、可能な限り一次資料に立ち戻って検証することです。
歴史上の出来事については、時間の経過とともに記録が失われ、記憶が変化し、当時の当事者が亡くなり、後世の説明によって出来事の意味や位置づけが変化することがあります。
そのため、本資料館では、現在広く知られている説明であるという理由だけで、それを当然の事実として扱うことはしません。
同時に、古い記録であるという理由だけで、それを無条件に正しいものとして扱うこともしません。
一つ一つの資料を、その成立時期、作成者、作成目的、記録された内容、他の資料との関係などを踏まえて検討することを基本とします。


2.人間の尊厳の擁護と基本的人権の尊重を原則とする


森永ヒ素ミルク中毒事件は、多数の乳幼児が被害を受け、その後も長期間にわたって被害と向き合うことを余儀なくされた重大な公害・食品被害事件です。
したがって、本資料館が資料を扱う際には、個々の被害者とその家族が一人の人間として有する尊厳を尊重することを基本原則とします。
被害者を単なる「人数」や「症例」として扱うことなく、それぞれが固有の人生を持つ一人の人間であったことを忘れません。
また、被害者、家族、関係者、行政職員、企業関係者、医療関係者、研究者、運動関係者、報道関係者など、資料に登場するすべての人について、人間としての尊厳と基本的人権を尊重します。
個人に関する情報を扱う場合には、歴史的資料としての重要性と、個人のプライバシーや尊厳との均衡を考慮します。
本資料館は、誰かを傷つけること、誰かを社会的に排除すること、あるいは特定の個人や集団に対する偏見を助長することを目的としません。
人権を守ることと、歴史的事実を検証することは対立するものではなく、むしろ両立させなければならないものと考えます。


3. 批判と検証について

本資料館は、歴史上の出来事や現在も続く問題について、必要に応じて厳しい批判を行います。
とりわけ、現在生きている被害者の人権が侵害されている場合や、過去に被害者家族・支援者・告発者などが積み重ねてきた活動や歴史が、事実と異なる形で扱われたり、忘却・抹消されたりする状況については、問題を曖昧にすることなく、明確に指摘することが必要だと考えています。
ただし、批判の表現が厳しいことと、事実の検証が厳密であることは矛盾しません。本資料館では、批判を行う場合にも、その根拠となる資料を確認し、可能な限り一次資料・公的記録・当事者の記録その他の信頼できる資料によって事実関係を検証します。
すなわち、本資料館が厳しい批判を行う場合には、その批判自体についても、このポリシーに定める資料の検証、事実と評価の区別、出典の明示その他の基本原則を遵守します。
批判の強さではなく、その批判が何に基づいているのかを検証できること。それを本資料館は重視します。


4.一次資料を重視する

本資料館では、可能な限り一次資料を確認することを重視します。
ここでいう一次資料には、当時作成された行政文書、裁判記録、判決文、企業資料、医療記録、研究資料、新聞・雑誌記事、被害者や家族の記録、当事者の手記・証言、団体資料、 書簡、写真、映像その他、事件当時または事件に直接関係して作成された資料を含みます。
ただし、一次資料であることだけを理由に、その内容を無条件に事実として採用するものではありません。
一次資料にも、誤記、記録漏れ、記憶違い、作成者の立場による偏り、当時の知識不足、意図的な情報の選択などが含まれる可能性があります。
そのため、
「誰が作ったのか」
「いつ作られたのか」
「何のために作られたのか」
「何が記録され、何が記録されていないのか」
「他の資料と一致しているのか」
という観点から資料を検討します。


5.公式記録も検証対象とする

行政機関、司法機関、企業、関係団体その他の組織が公表した資料は、歴史を理解するうえでの重要な資料です。
しかし、「公式に発表された」という事実と、「その内容が歴史的事実として完全に正しい」ということは同じではありません。
公式記録もまた、その時点における組織の認識、制度上の制約、政策的判断、組織上の利害、情報の範囲などの影響を受ける可能性があります。
したがって、本資料館では、行政機関や関係団体による公式説明についても、尊重すべき資料の一つとして扱う一方、必要に応じて他の一次資料と照合し、検証します。
これは特定の行政機関や団体を敵視するためではありません。
公的な記録であればあるほど、それが後世の歴史認識に大きな影響を与える可能性があるため、その内容を資料に基づいて検証することが必要であると考えるからです。



6.当事者の証言も検証する


一方で、被害者、家族、運動関係者など当事者の証言についても、それが当事者の証言であるという理由だけで無条件に事実認定することはしません。
人間の記憶には限界があり、長い年月の中で記憶が変化することもあります。
しかし、それは当事者の証言の価値を否定する理由にはなりません。
証言は、それ自体が歴史的に重要な一次資料です。
本資料館では、証言を尊重しながら、可能な場合には同時期の記録、他の証言、行政資料、裁判記録、新聞報道などと照合し、その内容を多角的に検討します。
つまり、
権力側の記録だから正しいとも、被害者側の証言だから正しいとも決めつけない。
どちらについても資料によって検証することを基本とします。


7.事実と評価・論評を区別する

本資料館では、確認できる事実と、それについての評価・解釈・意見を可能な限り区別して記述します。
資料から直接確認できる事実については、その根拠となる資料を明示することを基本とします。
一方、複数の資料から導き出した解釈や、本資料館としての評価については、それが事実そのものなのか、資料に基づく解釈なのかが読者に分かるよう努めます。
これは、意見を排除するという意味ではありません。
歴史資料を検討すれば、そこから一定の評価や解釈が導かれることがあります。
重要なのは、事実と解釈を混同せず、読者が自ら資料を確認し、自ら判断できる状態を作ることです。


8.資料間の矛盾や不一致を隠さない


複数の資料を比較すると、記述が一致しないことがあります。
年月日、人数、経緯、責任の所在、政策判断、当事者の認識などについて、資料ごとに異なる記録が残されている場合もあります。
そのような場合、本資料館では、一つの記述だけを採用して他の記録を意図的に排除するのではなく、可能な限りその不一致そのものを示します。
なぜ記録が一致しないのか。
どの資料がどの時点で作成されたのか。
どの資料により強い根拠があるのか。
現在のところ判断できない部分はどこなのか。
こうした問題も含めて公開することを基本とします。
分からないことを「分かったこと」にしない。
これも本資料館の重要な原則です。


9.歴史の歪曲、隠蔽、欠落について検証する

歴史は、残された資料によって形成されます。
しかし、何が記録として残され、何が失われ、何が公表され、何が公表されなかったのかという問題そのものが、歴史を理解するうえで重要な場合があります。
行政、企業、団体、司法、報道その他の組織によって作成された記録についても、そこに記載された内容だけではなく、何が記載されていないのか、どのような経緯でその記録が作られたのかを検討する必要があります。
その結果、複数の資料の間に重大な矛盾が確認された場合、あるいは後年の説明と当時の記録との間に明らかな相違が確認された場合には、その相違を資料に基づいて示します。
本資料館は、歴史上の出来事について、権力を持つ側の説明だけによって歴史認識が固定されることを避けます。
同時に、反対側の主張についても、それが資料によって裏付けられているかを検証します。
歴史の歪曲に対抗する最も有効な方法は、別の物語を作ることではなく、残された資料を一つ一つ突き合わせ、何が確認できるのかを示すことです。
本資料館は、その作業を継続します。



10.現在の説明を将来にわたって再検証する


歴史研究において、現在の説明が最終的な結論であるとは限りません。
新しい資料が発見されることがあります。
これまで知られていなかった記録が公開されることがあります。
既存資料について新たな分析が可能になることもあります。
そのため、本資料館では、一度公開した説明についても、新たな資料や合理的な反証が提示された場合には、必要に応じて再検証します。
既存の記述を守ることを目的とするのではなく、資料によってより正確な事実関係に近づくことを目的とします。
本資料館自身の記述についても例外ではありません。
誤りが確認された場合には、可能な限りその内容を訂正します。



11.出典を明らかにし、読者自身が検証できるようにする

本資料館では、可能な限り資料の出典を明示します。
読者が本資料館の記述だけを信じるのではなく、可能であれば元となる資料を自ら確認できるようにすることを重視します。
これは、本資料館が「正しい答えを与える場所」であることを目指すのではなく、
読者自身が資料を読み、比較し、考え、判断できるための基盤を提供する場所であること
を目指すためです。


12.「客観性」を自己宣言するのではなく、検証可能性によって示す

本資料館は、自らを「絶対的に客観的な存在」であると宣言するものではありません。
人間が資料を扱う以上、完全な無色透明の客観性を実現することは困難です。
重要なのは、「客観的である」と主張することではなく、どの資料を使い、どのような方法で検討し、どのような根拠から結論に至ったのかを可能な限り明らかにすることです。
読者がその過程を確認し、必要であれば反論し、別の資料を提示し、本資料館の記述そのものを検証できる状態を作ること。
それこそが、本資料館が考える「客観性」に最も近いものです。


13.資料館の役割

森永ヒ素ミルク中毒事件は、1955年に発生してから長い年月が経過しています。
しかし、時間が経過したことによって、事件の事実関係を検証する必要性が失われるわけではありません。
むしろ、当時を直接知る人々が少なくなり、資料が散逸し、記憶が失われていくからこそ、残された記録を収集し、保存し、比較し、次の世代に伝えることが重要になります。
本資料館は、特定の組織の公式見解を代弁するための場所ではありません。
また、特定の個人や団体を攻撃するための場所でもありません。
資料を残し、資料を読み、資料を照合し、そこから確認できる事実を可能な限り明らかにするための場所です。
その過程において、公的機関、企業、関係団体、被害者団体、研究者、報道機関その他のいずれの立場についても、必要な場合には検証・批判の対象とします。
そして、資料によって確認できる事実と、後世に形成された説明との間に重大な相違がある場合には、その相違を明らかにします。
それは誰かを裁くためではありません。
過去に何が起きたのかを可能な限り正確に知り、その経験を未来の社会に引き継ぐためです。
人間の尊厳を守ること。
被害を受けた人々の声を記録すること。
権力を持つ側の記録についても検証すること。
当事者側の記録についても検証すること。
そして、どちらについても資料によって確認できることと確認できないことを明確にすること。
本資料館は、この原則をもって資料を収集、検証、保存、公開します。

14.基本姿勢

本資料館は、過去を都合よく書き換えることにも、過去の説明を無条件に固定することにも与しません。
資料が示すものを読み、資料が示さないものについては慎重であり、矛盾があればその矛盾を示し、新しい資料が現れれば再検証する。
その積み重ねによって、歴史をできる限り正確に記録し、後世の人々が自ら資料を検証できる環境を残すこと。
それが、森永ヒ素ミルク中毒事件資料館の基本的な使命です。

以上

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1.WHO  [世界保健機関] 搾取的粉ミルクマーケティングの衝撃的レポート   [1]    [2]      [3]    /   WHOが乳幼児食品業界に対し搾取的粉ミルクマーケティングの中止を要求  [1]   粉ミルクとタバコは、国際的な販売禁止の勧告がある唯一の二つの製品である  [ 2 ]     [3]   / 2.United Nations University Press    [国際連合大学出版]  技術と産業公害> 森永ヒ素ミルク中毒事件      [English Version]  [1] /3.Report of Morinaga Arsenic Milk Poisoning Incident [English Version]   [1]        [2]  

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