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口封じ⑨ー「事件70年」の『しんぶん赤旗』記事には、係争中の原告が居なかった 

口封じ⑨ー「事件70年」の『しんぶん赤旗』記事には、係争中の原告が居なかった

森永ヒ素ミルク中毒事件資料館 岡崎久弥

2026年7月18日 11:35

 日本共産党中央委員会機関紙『しんぶん赤旗』が2025年7月24日から26日まで三回にわたって「森永ヒ素ミルク事件70年」と題して三回シリーズの連載を行った。内容は、現被害者団体と「ひかり協会」の活動を、ほぼその主張に沿った形で紹介するものであった。

係争中の大阪訴訟に言及なし

 つまり『しんぶん赤旗』は、2025年7月、大阪地裁判決を受けた控訴審が係属しているさなかに「ひかり協会」を麗々しくシリーズで連載したのだ。これは実に示唆的だ。

 さらに、最も特徴的なことは、『しんぶん赤旗』のこの記事は、森永ヒ素ミルク中毒事件の重症被害者女性による大阪訴訟(被告:森永乳業)に関して、一行も触れていないことだ。

森永乳業を「反省的企業」として紹介 

 さらに、森永乳業が責任を誠実に果たし続けている企業であるかのように、描かれている。

 裁判関係者の中には驚きを隠せないでいる人々もいたが、私には意外性はなかった。

物言うために立ち上がった被害者には触れずに…

 第1回目(上)の中見出しが、興味深い。

「物言えぬ被害者仲間に代わり声上げた」

『しんぶん赤旗』 「森永ヒ素ミルク中毒事件70年」(上) 2025年7月24日

 「被害者〝仲間〟」という語は、共同体の境界を示す言葉でもある。係争中の原告の存在が記事全体から欠落していることと合わせて読むと、「仲間」という言葉に込められた含意について考えざるを得ない。

 さて、2回目(中)はいつもの「ひかり協会」のいう「歴史」と「すばらしい救済事業の数々」の説明なのでスルーしよう。
 で、最終回(下)がまた、実に興味深い。

十字架を負っている、という森永が登場

主見出しは「十字架負う加害企業」
一段目

「現在に至るまで『三者の確認を経営の中軸に置いている』と同社の担当者はいいます。恒久救済事業については『加害企業の責任として一生背負うべき十字架です』。」

『しんぶん赤旗』 「森永ヒ素ミルク中毒事件70年」(下) 2025年7月26日

裁判で森永が見せている、その正体

 現在の森永乳業は、大阪裁判で、「除斥」を適用せよと、声高に主張して原告の請求を拒否し続け、さらに、被害者認定手帳を持つ原告の脳性麻痺について、ヒ素ミルク飲用との因果関係はない、とまで主張している。(読売新聞)  
 だがこの『しんぶん赤旗』を読む限り、いかにも、素敵な心掛けの企業に見えるではないか。

 だが、現在、裁判で森永乳業が主張している立場と、記事から受ける印象との間には、大きな隔たりが生じている。

 以下、よどみなく記事は語る。

「森永といまは信頼関係」

協会の平松正夫常務理事は「森永といまは信頼関係がある」といいます。50年以上も加害企業に社会的責任を果たさせている理由として、前野直道理事長は「被害者が全国単一組織でまとまっていること」をあげます。

『しんぶん赤旗』 「森永ヒ素ミルク中毒事件70年」(下) 2025年7月26日

「ひかり協会」幹部が「僕たちミルク仲間」と

 ちなみに「ひかり協会」幹部の三人が仲良く登場する写真が掲載された。そのキャプションは以下のとおり。

ひかり協会本部事務局で話し合う(左から)前野さん、塩田さん、平松さん=大阪北区

『しんぶん赤旗』 「森永ヒ素ミルク中毒事件70年」(下) 2025年7月26日

 ここで改めて彼らの肩書を確認しておこう。記事によると、前野直道氏は、「ひかり協会」理事長。塩田隆氏は「ひかり協会」常務理事、平松正夫氏も「ひかり協会」常務理事。写真の雰囲気から、この三人は、大変仲がよさそうだ。いわく「ミルク仲間」だと強調する。 

加害企業の商品名を頭に頂く「仲間」

ひかり協会本部事務局で話し合う(左から)前野さん、塩田さん、平松さん=大阪北区

『しんぶん赤旗』 「森永ヒ素ミルク中毒事件70年」(下) 2025年7月26日

 ヒ素が混入された加害企業の製品名、事件の忌まわしい記憶を表す代名詞を、共同体と称する「仲間」の冠ネームにしてはばからない、この感覚……。
 被害者同士の間でも温度差があるなかで、緊張感をもって問うべき加害責任を、共同体的な馴れ合いの関係へ置き換え、それを社会にまで受け入れさせる言語用法だ。(注1)

 水俣病の患者を「化学肥料仲間」と呼べば、社会はどう受け止めるだろうか。『しんぶん赤旗』にも問いたい。

「素晴らしい安定救済物語」への再構成

平松さんは「協会設立当初は考えの違いから組織問題が発生することもありました。私たちミルク仲間の被害者が引き継いだ頃から組織は安定してきました」と話します。

『しんぶん赤旗』 「森永ヒ素ミルク中毒事件70年」(下) 2025年7月26日

想定通り「民医連」が登場

「分け隔てなく救済するのがすごい」。こう評価するのは被害者で医師の岡本裕宏さん。放置された被害を67年に岡山県民主医療機関連合会が検診で掘り起こしたことを知って感激し、大阪民医連加盟の医療機関で働いてきました。協会では大阪府地域救済対策委員会の委員を務めました。」

『しんぶん赤旗』 「森永ヒ素ミルク中毒事件70年」(下) 2025年7月26日

弁護団から厳しく批判されている「国民的合意」なる掛け声を使った被害者への貧困政策

「救済事業が文字通り恒久対策であるのは『社会』からの支持をえられる適正な水準の対策だから」と前野さん。『社会に支持される方針を掲げよ』という「親たちの遺言を守っているといいます。親たちは初期の運動で〝過大な要求をする被害者〟と社会から誤解された苦い経験から「遺言」を伝えたのでした」

『しんぶん赤旗』 「森永ヒ素ミルク中毒事件70年」(下) 2025年7月26日

 あえて詳しく指摘する必要はないだろう。
 以下の「口封じ⑧」でも触れた貧困水準が、こういう素晴らしい言葉に置き換えられている。
 文末のレポートには証拠が十分示されているので、ご参照を。

口封じ⑧ー「被害者団体」が公文書に書いた「働かない被害者」~被害者同士を対立させる支配の手法|森永ヒ素ミルク中毒事件資料館 岡崎久弥

係争中の連載開始で、裁判を黙殺

 繰り返すが、同事件特集で「裁判については、一行もふれていないこと」が、この記事の最大の特徴である。

 加えて「事件70年」の総括記事に、現在進行中の重大な裁判を書かずに、加害企業と被害者集団の「信頼関係」を描いてみせた。

 ちなみに『しんぶん赤旗』は大阪地裁の判決自体は別記事で報じている(4/25)。係争の事実を「知っている」。ただしテキストのみの二段ベタ記事だ。
 しかし、この2025年7月の「森永ヒ素ミルク事件70年」三回連載では、係争中の大阪訴訟には一切触れず、「ひかり協会」が語る「収束型のナラティブ」によって事件像を再構成した。

 全国紙を含む多くのメディアが、特集記事で〝終わっていなかった〟事件として報道してきた係争中の大阪訴訟という重要な争点を、『しんぶん赤旗』が事件の70年を総括する記事から外した編集判断は、極めて示唆的である。

 さらに、『しんぶん赤旗』は、法廷で既に問題となっている被害者への人権侵害の数々にも一切言及しない。

 今や森永乳業が裁判で、公然と自身の責任逃れに利用しているのが「ひかり協会」であることも、取材中の新聞記者にも、傍聴席にも明らかであるのだが……。

一般マスコミの若手記者が示した違和感

 事実、一般マスコミの若手記者は、法廷で取材しながら、加害企業と重症被害者を前に、「ヒ素ミルクを飲んで良かった」とか、「(重症者のために森永と交渉するのは)いいやり方とは思いません」などと発言する「ひかり協会理事長」の態度に、非常な違和感を感じている。
 その報道記事から、疑問がしっかり伝わってくる。(注2)

現代の病理を映す鏡

 だが、『しんぶん赤旗』はそんな違和感は感じないようだ。『しんぶん赤旗』の「事件70年」連載記事は〝「ひかり協会」は大変素晴らしいねえ〟 〝森永さんもよく反省されてて…〟という印象を残す内容だ。
 かつての産経新聞の記事と同様に、あるいはそれ以上に、現在進行中の対立構造を見えにくくする記事となっている。

『しんぶん』と言いたいなら

 「何を書くか」だけでなく、「何を書かないか」もまた、その媒体の姿勢を示す。ジャーナリズム論では必ず問われるテーマだ。事件史と被害者問題を紹介する形をとりながら、現在進行形の重大な争点(裁判)さえも欠落させた結果、読者に特定の歴史像だけを提示する記事になった。

 そもそも『赤旗』は党の宣伝紙である。にもかかわらず、仮に「しんぶん」と名乗りたいのなら、客観的に進行している事態に、批判的な目を注ぐ責任が生まれるはずだ。
 もし、それが無いならば、意図的に省略された事実に注目し、結局のところ「何を宣伝したかったのか」が厳しく問われることになる。

以上

【注釈及び参考資料】

注1:  「ミルク仲間」……被害者遺族からすると、おぞましい呼称だ。だが、感情を抑え、言語的に解体する/ヒ素が混入された加害企業の製品を指す一般名詞「ミルク」、事件の忌まわしい記憶を表す代名詞を、共同体を示す「仲間」という語を冠した名称に組み込むことは、単なる呼称の問題にはおさまらない。言葉は記号(シンボル)でもあり、記号は人々の認識や感情に長期的な影響を及ぼす。その意味で、「ミルク仲間」という呼称は、加害企業を想起させる記号を共同体の象徴へと置き換える作用を強力に推進しうる。その結果として、次のような心理的・社会的作用が生じ得る。
① 加害責任を想起させる記号を、「仲間」という親和的な記号と結び付けることにより、加害企業と一体化したかのような心理に誘導する作用。
② 被害への記憶に温度差がある集団を「一様な温度」で管理し、加害企業に対する心理的抵抗感を一方向から操作できるようにする作用。
③ そうして生み出された被害者の「共同体アイデンティティ」が、その商品名を媒介として形成・再生産される作用。

注2:マスコミ記者の疑問

朝日新聞全国版2025年4月11日.jpg   394KB ダウンロード

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読売新聞 2026年(令和8年)1月28日社会面.jpg 745 KB ダウンロード

https://note.com/api/v2/attachments/download/3a645ed22883a32980a8ba07a5e94fb9

【参照資料】

 「ひかり協会」が救済事業の9割を放棄している事実は以下をご参照

能瀬英太郎著『森永ヒ素ミルク中毒事件 発生から50年』.pdf 623 KBダウンロード

https://note.com/api/v2/attachments/download/f78c63843dc4d81479e034369129a869



【参照記事】

 「ひかり協会」「被害者を守る会」の密室、差別、言論弾圧の一端は、以下ご参照。

「(財)ひかり協会」職員たちの差別暴言【全文公開】─「文句いうなら不自由な体をもっと動かんようにしたろか」「あんた一人おってもおらんでも困らん」「手が出とるぞ」…

https://note.com/no_more_morinaga/n/n95e1c3e5f1ee

口封じ①──現「被害者団体」の「報道ガイドライン」

https://note.com/no_more_morinaga/n/n28a956e6bdbe

口封じ④─消された異論─「口封じ議事録」と呼ばれる文書に森永重役が関与

https://note.com/no_more_morinaga/n/n64e39e56f1f1

口封じ⑤─市民は〝被害者団体〟の看板を使った不正を許さなかったー「能瀬訴訟」の意義

https://note.com/no_more_morinaga/n/n99ef99d43e05

口封じ⑥─法廷で重症の原告を前に「ヒ素ミルクの被害者でよかった」と「ひかり協会」理事長

https://note.com/no_more_morinaga/n/neca2049590bc

口封じ⑧ー「被害者団体」が公文書に書いた「働かない被害者」~被害者同士を対立させる支配の手法

https://note.com/no_more_morinaga/n/n17eb7a3071ab

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森永ヒ素ミルク中毒事件資料館  岡崎久弥

森永ヒ素ミルク中毒事件資料館 岡崎久弥

1955年、原乳の腐敗を隠すため産廃由来のヒ素混入物質を投入した森永乳業の粉ミルクで130人以上の乳児死亡、1万3千人の患者。反省なき森永は国を使って20年に亘り救済運動を弾圧。不買運動で倒産寸前となった森永は渋々救済案に応じるが、以降も不正な工作を続け2022年再び提訴された。

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口封じ⑨ー「事件70年」の『しんぶん赤旗』記事には、係争中の原告が居なかった|森永ヒ素ミルク中毒事件資料館 岡崎久弥

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